美術作家 韓国

ムン・キョンウォン Moon Kyungwon

2004年度 招へい

1969年、韓国に生まれる。梨花女子大学卒業後、同校とカリフォルニア芸術大学で修士号を取得。


[招へい] 2004年9月8日〜2004年12月8日

滞在中の活動

2点の映像作品、天神地下街と川端商店街で博多工業高校の生徒や市民が出演した「Stop it!」と3台のモニターテレビを同期させた「Look at me!」を制作した。また、福岡市役所1階にオープンする福岡市情報プラザに展示する作品や当館で開催する「AniMate。」展への出品など多忙な日々を過ごした。

活動スケジュール

9月8日
福岡に到着。
9月9日
滞在中の活動内容について協議する。撮影場所や日程、出演者等について話し合う。
9月15日  
スーパーマーケットで食料品や雑貨品などを次々に写真撮影する。
9月18日  
ボランティア・スタッフに滞在中の活動予定を説明する。
9月20日 
「森田加奈子展」(共同アトリエ三号倉庫)で、作家の森田加奈子さんに展示作品や施設
などの説明を受ける。
9月24日  
滞在制作について再度具体的に協議し、福岡で最も人通りの多い天神地下街で撮影する
ことが決まる。
10月3日
山口情報芸術センターを訪問。学芸課長の阿部一直さんに施設や活動内容を説明していた
だき、同センターで開催されたシンポジウムを聴講する。
10月16~18日 
東京へ旅行する。
10月21~26日 
ソウルで開催される展覧会の準備のために一時帰国する。
10月27日 
博多工業高等学校を訪問し、天神地下街での撮影に参加してくれる生徒16人に対し、
作品や撮影方法について説明する。撮影当日には、あと数人の高校生が参加する見込み。      
10月31日 
博多工業高等学校の生徒と一般市民、約50人が出演し、撮影をおこなう。午前の
開店前に天神地下街での撮影を終え、その後、川端商店街に移動。午後からは
福岡アジア美術館の中でも撮影する。
11月22日
編集もほぼ終わり、展示で使用するコンピューターに韓国から持参した
グラフィック・ボ ードを装填する。突然、縦縞の線が画面に現れ、
グラフィック・ボードの回路が壊れてしまう。
11月25日 
壊れたグラフィック・ボードは、もう生産されていないことがわかる。また、同レベルの
製品も取り寄せに時間がかかるため、仕方なく安価なグラフィック・ボードを注文する。
しかし、それでも時間に余裕がない。
12月3日  
成果展前日の夕方。展示用の3台のディスプレイに滞在制作したアニメーション作品を映
してみるが、ディスプレイの縦横比率が合わない。明日までに再編集しなければならなくなる。
12月4日  
1カットごとに画像サイズとイメージの位置を変更させるという気の遠くなる作業をおこない、
朝になってようやく完成。無事、「第6回アーティスト・イン・レジデンスの成果展 パート2」
のオープニングを迎える。エキストラとして参加してくれた人たちに、作品のコンセプトや
制作過程について話す。
12月7日  
4月に福岡市役所1階にオープンする福岡 情報プラザに作品を展示することになり、
情報プラザで担当職員と協議する。その後、福岡アジア美術館に戻り、2月に開催される
「AniMate(アニメイト)。」展の展示作品について担当学芸員と協議する。
12月8日  
帰国。

アーティストの言葉「Look at me!」

生活から切り取られた無数のイメージや文字に囲まれながら、私たちはそれらに反応したり、動いたり、呼吸したりします。歩いている人々やどこかに向かっている人々といったこの作品のなかのイメージは、それ自体で動き続ける空間内に、また別の独立した<生成・変化>が存在することを示しています。私たちの今(の姿)は、こうした動きの瞬間のなかに映しだされているのです。
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 現実の空間における人間の五感、なかでも触感はヴァーチャル空間においてはもはや使用不可能のように見えますが、視覚と聴覚の助けを借りたり、蓄積された触感の記憶を思い起こすことで、脳に伝達することが可能です。この偽りの触感は脳の中に残留します。この作品で私は<現実>の身体がバァーチャル空間のコミュニケーションにおいて不可触の現象であるということを強調しているのではありません。それとは反対に、バーチャル空間における<バーチャル>な身体経験が、現実の身体をどう意味づけるのかを検証しているのです。

ムン・キョンウォン

(訳/高木のぞみ)