美術作家 インド

レカ・ロドウィッティヤ Rekha Rodwittiya

2004年度 招へい

1958年、インド、バローダラーに生まれる。M.S.大学美術学部を卒業後、ロンドンの王立美術大学で修士号(絵画)を取得。


[招へい] 2004年5月11日〜2004年8月9日

交流活動

当館の彫刻ラウンジにおいて、インドと日本の視覚表現を織り交ぜた6点の連作を公開制作した。作品の完成後は、3回の連続美術講座によってインド近代・現代美術の流れを紹介したほか、田川市美術館での小学生を対象にしたワークショップや各地の美術館を訪問するなど、精力的に活動した。

彫刻ラウンジでの制作風景
6月3日 滞在制作作品の前で、九州大学美学美術研究室の学生からインタビューを受ける

活動スケジュール

5月11日  
福岡に到着。
5月12日  
滞在制作について協議する。当初のプラン通り6点の連作を描くことになる。
5月13日  
「台湾現代美術展 The New Identity Part-5」展(三菱地所アルティアム)のオープニング・レセプションに参加。
5月15日  
ボランティア・スタッフに滞在中の活動予定を説明する。
5月19日  
彫刻ラウンジで滞在制作を開始。6枚のキャンバスにそれぞれ違った色の下地を塗っていく。
5月20日  
九州大学芸術工学研究院、石川幸二教授の授業の一環として、芸術情報設計学科の学生からインタビューを受ける。
6月3日  
九州大学大学院人文科学研究院、後小路雅弘教授の授業の一環として、芸術学研究室の学生からインタビューを受ける。
6月7日  
NHK福岡放送局の情報番組「情報ワイド福岡一番星」に出演する。
6月12、13日  
東京に旅行する。森美術館で開催されたシンポジウム「アジアのモダニズム」を聴講し、東京都現代美術館などを訪問する。
6月23日  
6点の絵画が完成する。
6月27~29日  
京都へ行く。
7月1日  
福岡県内にあるアートスペース千代福、共星の里、石橋美術館を訪問する。
7月7日  
後小路教授の演習に参加する。ジェンダー・ポリティックスをテーマに、インドの経済・政治・文化の状況を話す。また、滞在制作した6点の連作を当館の彫刻ラウンジに展示する。
7月11日  
「連続美術講座 インド美術を巡る旅 ~モダニズムからポスト・モダニズムまで~」の1回目をあじびホールで開催する。
7月14~16日  
広島に旅行し、広島平和記念資料館や直島コンテンポラリーアートミュージアムなどを訪問する。
7月18日  
連続美術講座の2回目を開催。
7月22日  
田川市美術館において小学生を対象にしたワークショップ「Myself&the Other―わたしとみんな―」をおこなう。(参加者9人)
7月25日  
連続美術講座の3回目を開催。
8月7~17日  
「第6回アーティスト・イン・レジデンスの成果展 パート1」を開催。今回のレジデンス・プログラムで交流・支援していただいた人々が数多く集まり、作品の前でアーティスト・トークをおこなう。
8月9日  
帰国。

5月19日~ 彫刻ラウンジで滞在制作を開始
6月3日 滞在制作作品の前で、九州大学美学美術史研究室の学生からインタビューを受ける
6月3日 滞在制作作品の前で、九州大学美学美術研究室の学生からインタビューを受ける 
7月1日 アートベース千代福、共星の里を訪問する
7月11、18、25日 連続美術講座
7月11、18、25日 連続美術講座
7月22日 田川市美術館でのワークショップ
8月7日 展覧会オープニング

アーティストの言葉

「額田王(ぬかたのおおきみ)と掘り出し物好きな旅人との偶然の出会い」

 絵の話をするのは、いつも難しいことです。なぜなら、視覚表現というのは、ある特定の事物を直接的に表現するものではないからです。絵画は詩と同様に、概念のニュアンスを含み伝えるものです。
 旅人としての私の好奇心は、未知なるものの機微を観察し、その中から自分とのつながりや共通点を探りだし、自分をその新しい状況に適合させることにあります。
 日本は、私にとって、一度も訪れたことがないという意味において、未知なる国でした。ですが、私はこの美しい国を映画や文学、美術、文化を通して、長い間、心の目で旅していました。ですから、ある意味、福岡アジア美術館の招聘で福岡にやって来るということは、毎日の生活からかけ離れた遠くにいる親しい恋人に再会するようなことだったのです。
 学芸課長のことは何年も前から知っていましたし、アジアの現代美術に関して私たちは共通の考え方と情熱を持っていると思っています。ですから、この絵画を公開制作することを彼が提案したとき、私はそれを受け入れました。なぜなら、私もアーティストの絶え間ない作品との対話を公開することで、この絵画の制作過程が見る人にとってより現実的なものになると感じたからです。
 6つの部分からなる1つの絵画を描こうとしたのは、それが単に話を伝える手段としてではなく、それによって物語の枠組みを探求できるからです。これにより、それぞれ独立して存在する視覚表現が互いにつながりあい意味を創出する詩的なメタファーを表現することが可能になりました。
 テーマの土台となったのは、私が日本とインドの文化的な文脈を観察することで浮かび上がったイメージと両国の視覚表現を織り交ぜていくことでした。この意味で、福岡は私がこの国の文化、生活、政治を観察するための「研究所」となりました。
 「額田王(ぬかたのおおきみ)と掘り出し物好きな旅人との偶然の出会い」というタイトルは、この視覚的旅行記の意図をよくあらわしています。7世紀の日本の伝説的な女性歌人とインドの旅人との空想のなかでの出会いは、過去の歴史と現代が認識のフィルターとなっていることをあらわしています。文化的遺産や歴史や多様性に富む国から来たアジアの現代アーティストとして、私はそのような背景に身を置くことを心地よく感じるとともに、現代の文脈を再検討したり、再び問題提起することで、その文脈を理解しようとしています。

レカ・ロドウィッティヤ
(訳/高木のぞみ)