〈生活とアートⅤ〉窓花/中国の切り紙――黄土高原・暮らしの造形
- 期間
- 2013年10月18日 (金) 〜 2014年1月28日 (火)
- 会場
アジアギャラリーB
現代アジアに生きる民俗芸術や大衆芸術を取り上げる「生活とアート」シリーズの5回目として、中国・黄土高原の切り紙を紹介します。 切り紙は中国では剪紙(ジェンジィ)と呼ばれ、春節や婚礼の飾りなど、暮らしのさまざまな場面を彩ってきました。なかでも、窰洞(ヤオトン/横穴式の土の家)の障子窓に貼られ、ステンドグラスのように美しい光を室内に投げこむ「窓花」は、厳しい自然のなかにあって、ひときわ印象深い切り紙です。そして、こうした豊かな紙の造形を手から手へ、絶えることなく伝えてきたのは、農村で暮らす女性たちでした。 本展では、切り紙や紙の造形だけでなく、それらが生み出された黄土高原の暮らしや生活空間にも焦点を当てることで、より深く人々の暮らしに分け入り、その造形の魅力に迫ります。また、会期中には上映会やトーク、切り紙のワークショップなどもおこないます。 この機会にぜひ、窓花の奥深い世界に足を踏み入れてください。
「なんと、全部ハサミで切る!」 黄土高原の「窓花」と出会う
中国、黄土高原のほぼ中央に位置する陕北(陕西省北部) 地域。この地の人びとは古くから、起伏の激しい山谷にトンネルを掘った伝統住居、ヤオトン(窰洞)で暮らしてきました。ヤオトンの正面には、唯一の採光部である美しい格子窓、障子紙が貼られたこの窓は、伝説上の動物から日々の暮らしの風景まで、実に多様な図柄を描いたまっ赤な切り紙細工で彩られます。
「窓花」と呼ばれるこの切り紙細工は、農家の女性達が農閑期に楽しむ正月飾りで、毎年の年越し準備の際に貼り替えられます。陕北農村には「窓花を貼らないと子ども の眼が見えなくなる」という言い伝えがあり、特に子をもつ家々の窓には、愛らしい窓 花が飾られます。ハサミだけで切り出される多様な図案は、吉祥や魔除けの意味をも つといわれ、文字を読み書きできない女性達は、家族や恋人への想いや願いを、窓花の かたちに託すのです。
生きた花が咲いては枯れて種を宿すように、窓に咲く花もめぐる季節ののうちに色褪せ 破れる運命にあります。女性達は年毎に古い切り紙を型紙にして重ねて切ることで、遠 い昔のかたちに新しい命を吹き込みます。陕北の大地に降り立つと、一面冬枯れた黄土 色の世界の中で、この小さな赤い切り紙が、まさになくてはならない花だと実感されます。
窓花はガラス窓が増えた今もヤオトン暮らしに欠かせない装飾品として生き続け。 80年代以降はこれを大型の剪紙作品にまで昇華させる、高槻蓮のような作り手も現れました。現在、黄土高原の切り紙は、中国の非物質文化遺産(無形文化財)にも指定される、当地域の代表的な民俗芸術として発展し続けています。
「ここに、なくてはならない花」 日常と幻想が融け合う、ヤオトンの空間
黄士の山肌にトンネル状の穴を掘って造るヤオトン 夏涼しく冬温かいこの土の家 には、水の希少さや凍てつく冬の寒さを乗り越えるための、暮らしの知恵が詰まって います。「坑」と呼ばれるオンドル式の寝床は、かまどで焚いた火の熱で温まるしくみ。 早朝のヤオトンの室内には、かまどを焚くふいごを回すゴーゴーという音が響きわた ります。朝晩の食事から針仕事、近所の人々の井戸端会議までヤオトンの日常は、この 坑を中心に営まれます。
ヤオトンの高いアーチ型の丸天井や壁は、窓から糸し込む陽光を受けて、優美な格 子とユニークな窓花の影を映し出すスクリーンでもあります。日常の暮らしから神話 の世界や伝説上の魔物まで、切り手の女性達が繰り出すかたちの数々が、薄暗いやヤオトンの空間に浮かび上がります。
また、陕北の窓花は単にめでたいかたちを表すだけではなく、特に人形の切り紙は、天の神や地下に住む霊魂に人々の祈りを届ける使者の役割ももちます。たとえば両手 を広げて大地を支える少女をかたどった抓髻娃娃は、万難を排して繁栄をもたらす守り神。このほか女性達は病気になったり、困ったことがあると紙の人形を切り出し、家 の中にぺたっと貼りつけます。山のなかに抱かれた穴居の土壁に貼られたこれらの切り紙は、彼女達を助けるこの世の外の世界の存在との通信手段。このように、日常と幻想が融け合うヤオトンの空間のなかで、窓花は脈々と生き続けてきたのです。
「紙の衣で、ご先祖様も冬支度」 この世とあの世をつなぐ紙の花
真っ赤な「窓花」が春節や始礼などの祝い事を飾るのに対し、陕北の葬礼は、あの世 へと向かう魂に奉げられる美しい「紙花」で彩られます。たとえば亡くなった人の歳の数だけ白い紙をを短冊状に切り、隣人や神々に喪を知らせる「歳数紙」。霊魂を墓、そしてあの世へと送り届ける張り子の鶴「迎魂鶴」……。ヤオトンの前庭に設えられた祭壇には、色とりどりの花輪から車や家、馬に洗濯機、金銀財宝まで、ありとあらゆる品物が紙で作られ、供えられます。
死者が運転や洗濯をすると聞くと私達日本人は驚きますが、中国では、人は地上の 「陽界」に生き、死ぬと霊魂となって地下の「陰界」へと移り、そこでまた現世と同じように暮らしていくと考えます。ご先祖様は飲み食いも娯楽も必要不可欠。紙でつくった生活必需品は、親類達の葬列でお棺とともにお墓まで運ばれ、埋葬後に墓の上で
燃やされて、炎と煙と化すことであの世へと移動します。
この地では、燃えて煙になることや時とともに色褪せ破れることが、ぐるぐるとまわる生と死の営みを映す紙という素材がもつ、大切な役割なのです。
この世とあの世の間をつなぐ紙細工のやりとりは葬礼にとどまらず、春節や旧暦十月一日の衣替えの季節には、食品や生活道具などに交じって町の市に、あの世の人びとに贈る冬服「寒衣」や天国銀行発行の「紙銭」が並びます。春節に家々の門に貼る赤い春聯もまた、隣人や神々に伝える吉祥の言葉や新年の願いが記される、メッセージ カードと言えるものです。
| 会場 | アジアギャラリーB |
|---|---|
| 観覧料 | 一般200円(150円) 高校・大学生 150円(100円) 中学生以下無料 |
| 主催 | 福岡アジア美術館 |
| 問い合わせ | 学芸課 TEL:092-263-1100 |