メッセージ―アジア女性作家たちの50年

期間
2020年3月21日 (土) 〜 2020年6月23日 (火)
会場

アジアギャラリー

アジア各地の様々な社会状況を背景に、これまで多くの女性作家たちが力強い作品を生み出してきました。本展は、1970年代から現在までの約50年間に制作された当館所蔵の女性作家の作品を紹介します。女性に負わされる社会的役割を問う作品や事件を告発する作品など、彼女たちが作品に込めたメッセージを読み解きます。

1970〜80年代:女性であることを問う

1970~80年代のアジアの多くの国々では、人々は深刻な軍事対立や独裁政権に苦しみ、人種や階級、宗教紛争などの社会的な諸問題が噴出しました。このような社会環境は、根強い家父長制と伝統的な価値観に苦悩してきた女性たちの、性差に対する意識に影響をおよぼしていきました。美術においては、それまで描かれる対象であった女性たちが自らの身体を取り戻すように、自分自身やそれを取り巻く社会に関心をよせ、「女性であること」に向き合い表現を模索します。折しも世界では、1960年代末頃から北アメリカとヨーロッパ諸国で第2波とされる「女性解放(ウーマンリブ)運動」(第1波…19世紀前半の西洋諸国で婦人参政権をきっかけに始まった男女平等を求める運動)が起こり、古い価値観や性別による社会的役割などの見直しが進み、男女の実質的平等が活発に求められていました。アジアの女性作家たちは、このような欧米世界における社会変革と連動するように、女性グループをつくり連帯していったのです。

このコーナーでは、1968年にインドで結成された版画家集団〈グループ8〉の創立メンバーであったアヌパム・スードの版画作品や、ジェンダー意識の高まったフィリピンで、1987年に結成された女性グループ〈カシブラン(女性の芸術と新しい意義という意味)〉の創設メンバーであったイメルダ・カヒーペ=エンダーヤの迫力ある絵画など、各国の社会状況を色濃く映した作品を紹介します。

1990年代:共有されるジェンダー概念

1990年代は、アジアのなかでも多くの女性作家が台頭してきた時代です。人間の性は多様であるということを前提に、日常に潜む様々な性差別とその苦悩などを、インターネットなどを通して提起する動きが世界的に広がります。アジアの女性作家たちのなかでも、70~80年代の問題意識を引き継ぎながら、ジェンダー(社会的につくりだされた性差)という概念が広く深く共有されていきます。同時に世界では、性別に捉われずに自分らしい生き方を選択する時代だとする第3波の女性運動が広がり、美術の分野では女性の社会的な地位や役割に対して疑問を投げかけるメッセージ性の強い作品が数多く登場します。

このコーナーでは、キリスト教徒の夫に嫁ぎ、結婚・出産を契機として女性の役割を問い直すことをテーマにしたエン・フュウチュウの絵画や、女性であることと同時に母と娘の関係をつむぎ直そうとするアマンダ・ヘンの写真などの作品を紹介します。

2000年代以降:複雑化するアイデンティティ

2000年代以降は、異なる文化の共存や多民族の共生を図ることを目指す多文化主義の広がりにより、女性のアイデンティティをめぐる問題が90年代よりも多角的に語られるようになります。表現方法もテクノロジーを駆使したものから自国の伝統技法に回帰するものまで多種多様です。特に女性作家は、女性の家事と結び付けられてきた技術(手仕事)や素材を逆手にとり、男性作家とは別の表現方法の回路を広げています。

このコーナーでは、レース編みを使い女性の複雑な立場を彫刻にしたアノリ・ペレラの作品や、韓国料理で厄よけの意味を持つ小豆(あずき)を画面いっぱいに描いたジョン・ジョンヨプの絵画、実際に起きた女性への暴力事件を告発するナズリー・ライラ・モンスールの絵画などの現代作品を紹介します。