コレクション展

びっくり!そっくり!~究極のリアル~

期間
2016年4月21日 (木) 〜 2016年8月23日 (火)
会場

アジアギャラリーA

古来、ひとは、絵や彫刻で本物そっくりに「ひと」や「もの」を再現してきました。その典型が肖像画や肖像彫刻で、顔かたちだけでなく人格まで伝えるような造形が求められました。生き写しのような絵や彫刻を通して、ひとは表わされた「ひと」を偲び敬ってきたのです。本物そっくりに表現されたのは、「ひと」ばかりではありません。動物や植物、器物や建築、風景などの「もの」も、しばしば写実的に再現されてきました。
写実表現には、鋭い観察眼と再現する技量が求められますが、19世紀後半から写真が普及すると、対象を写真にとり、それを見ながら再現する方法がよく使われるようになります。とくに、「ひと」や動物など動く「もの」に対しては、写真は便利で有効な方法になりました。また複数の写真を組み合わせて、実際以上に臨場感を作り出したり、それぞれは本物そっくりながら全体では架空の世界を創出するなど、「リアル」な表現の幅が広がります。ここでは、対象をじっくり観察する、写真を使うなど、再現の方法もご覧ください。
とことん本物「そっくり!」の絵や彫刻に「びっくり!」していただき、再現しようとする行為の奥に、限りある命を永遠に留めたいという人間の願いをくみとっていただければ幸いです。

 

須田悦弘

2002 年に開催した 「第2回福岡アジア美術トリエンナーレ2002」で、須田悦弘は美術館内に芽吹くはずのない《菫》と二種類の《雑草》 を展示しました。 いずれも可動壁の間や建築の梁の隅など意外な場所におき、 観覧者にそれらのありかを捜していただくことを鑑賞の一部とした作品です。 ただし、 今回の企画では、 本物そっくりに作られた作品そのものをご覧いただくため、《菫》 と一種類の 《雑草》 はケース内に展示し、 もう一種類の 《雑草》 のみ館内のある所に展示しています。 ヒントは8階 (この展示室の上階)の渡り廊下近く。 どうぞ捜してみてください。

[製作風景]
二種の《雑草》は、須田が福岡に滞在中(2002 年4~5月)に制作。博多川沿いの植え込みから採取した雑草を見ながら、木を精巧に彫り最後に色をつけ本物そっくりに作り上げる。

「第2回福岡アジア美術トリエンナーレ2002」 での 《菫》と二種の 《雑草》の展示風景

ワン・ホンジエン(王宏剣)

作者は、1987年に故郷(河南省函谷関)で行われた身内の年寄の葬儀に想を得てから、8年の歳月をかけて構想を練り、取材を重ねて本作を完成しています。その制作過程は、作者によれば次のようになります。

1987年  函谷関の葬儀で写したモノクロ写真から、絵の背景や雰囲気のイメージを膨らませ絵画化を計画。大自然と生命の対比を意識し、生命のはかなさと無常、強さを表現することにする。

1990年 陝西省北部の榆林市王家湾で想い描いていたような情景に出会う。多数のスケッチとモノクロ写真を写す。

1992年 王家湾でのスケッチとモノクロ写真を基に下図を完成。

1993年 下図に従って本作を油彩画に仕立てるため、再び函谷関へいき取材。本作に描きこまれた各モチーフは、このとき集めた写生と写真から描き起こしたもの。風景は想像を交えて構成し、登場人物はみな親戚をモデルに描いている。なお、棺の上の紅い布は、老人の葬儀で見られる河南省地方の風習である。

以上がおおよその制作過程で、一枚の大作を仕上げるのに、長い時間と多くの労力をかけた様子がうかがえます。
また作者は、紅い布の処理を中国の書に押されている朱印にヒントを得、風景の色調を北宋山水画から採用したと言います。おそらく、雄大な山容を仰ぎ見、人物の奥へも目を向けさせる構図も、北宋山水画を踏まえたものでしょう。本作に描かれた一見リアルな黄土高原の風景や風俗の底流には、中国の歴史的な書画の伝統も流れているのです。

チューシン・スティアディカラ

1987 年にバリ島に移住したチューシンは、 バリの風物に取材した絵画を制作してきました。近代的なスーパーマーケットに変わろうとするキンタマーニの古い市場を描いた本作も、 そのひとつになります。チューシンは自ら撮影した写真をもとに制作をしており、 写真と絵画を見比べると、 人や果物などは正確に再現されていることが確認できます。 そのいっぽうで、 それぞれの配置は作者によって再構成されていることがわかります。 さらに絵画の背景には、 近代化していくバリの未来を予感させるかのように、アメリカの人気SF「スタートレック」に登場するエンタープライズ号が描きこまれているのです。

本作制作のために作家が撮影したキンタマーニ市場の写真

ミョ・タン・アウン

『第6回アーティスト・イン・レジデンスの成果展 パート1』 での展示風景

2004 年に当館のレジデンス事業で福岡に 3ヶ月間滞在したミョ・タン・アウンは、 地元小学生とのワークショップや絵画の制作、 展覧会の開催などを精力的におこないました。「信じるもののある生活」 は、 ミョ・タン・アウンが福岡で制作した作品で、 向かって右側からミャンマーの山岳民族の女性 (2点)、 金色の仏像 (1点)、 博多区の住人(2点)が描かれています。もともとは5点で構成されていましたが、当館では左側の2点、博多区の人の肖像画を所蔵しています。

[制作風景]
写真を見ながら、 顔に刻まれたしわやしみを省略することなく、 丹念に、 慈しむように描写していくミョ・タン・アウン。 その作品には、 長い年月を生きてきた人への尊敬の念があふれている。