あじびレジデンスの部屋 第3期

期間
2019年9月26日 (木) 〜 2019年11月26日 (火)
会場

アジアギャラリー

福岡アジア美術館では、1999年の開館当初から、毎年アジアの美術作家や研究者を招いて一定期間滞在していただき、市民との共同制作やワークショップ、トークなどをとおして交流をおこなう「レジデンス・プログラム」をすすめてきました。こうした交流により、地域の人々がアジアの美術と文化への理解を深め、アジアの美術交流拠点となることを目指しています。

今年、当館の「レジデンス・プログラム」招へい・受入支援作家の4名が、「博多旧市街まるごとミュージアム2019」(10月11-14日)に参加し、博多旧市街の寺院を会場に、福岡での滞在制作作品を発表しました。この企画は、歴史を感じる舞台で作品を展示する屋外型アートイベントで、当館のレジデンス作家が参加するのは、昨年の春、秋に続いて3回目となります。

本コーナーでは、「博多旧市街まるごとミュージアム2019」に参加した作家のうち、今年度招へい作家のハン・スンピル(韓国)とレ・ヒエン・ミン(ベトナム)、昨年度招へい作家のキャンディー・バード(台湾)の3作家の出品作品の一部を、記録写真や映像とともに紹介します。当館レジデンス作家の美術館内にとどまらない活動の広がりを感じていただければ幸いです。

■「博多旧市街 まるごとミュージアム」とは?
歴史を感じる舞台でアート作品を展示する屋外型アートイベン卜「まるごとミュージアム」。
昨年に引き続き、博多旧市街エリアのお寺を舞台に、国内外7アーティストによる作品が展開されます。今回は、「博多旧市街ライトアップウォーク」とのコラボで、夜にはライトアップされた作品やお寺をお楽しみいただけます。

 

キャンディー・バード[台湾]
[滞在期間 2月18日~3月30日、9月28日~10月16日]
1982 年生まれ、台北在住のアーティスト。2017 年から東アジアの各地で、移住してきた人や自分の場所になじめずに疎外感を抱く人々などを取材して、彼/彼女らに私的な物語を書いてもらい、それらを壁画に描き出すアート・プロジェクト《アザーズ/ The Others》を行っています。福岡では協力者を公募し、その中で出会った人とインタビューやメールなどで対話を重ね、協力者が書き下ろした自分にまつわる物語をもとに、壁画を完成させました。

「アザーズ-Good Night, and Good Morning」 2019 年
福岡のプロジェクトでは、公募で選ばれた朝鮮初級学校で美術を教えている崔栄梨(チェ・ヨンリ)さんの協力により、崔さんにインタビューをおこない、幼い頃の思い出の場所を一緒に訪れるなどして交流を深めました。2019年 3 月末にキャンディー・バードが帰国し 9 月に再来福する間もメールによる往復書簡は続きました。最後に崔さんが自分の幼い頃の思い出や現在の心境を綴ったテキストを書き上げ、キャンディー・バードがそれらをもとに絵画作品3点(龍宮寺1点、博多せんしょう 2 点 ※下記、写真参照)を制作しました。いずれも QR コードを読み取ることにより崔さん本人の朗読音声を聞きながら鑑賞する作品です。

龍宮寺 撮影:八田公子

博多せんしょう

博多せんしょう

ハン・スンピル[韓国]
[滞在期間 5月14日~7月19日、10月6日~10月16日]
1972年生まれ、ソウル在住のアーティスト。韓国の国内外で活躍する美術作家で、日本でも2011年横浜トリエンナーレ、2018年清里フォトミュージアムでの展示経験があります。
福岡アジア美術館のレジデンス作家として、今年5-7月に福岡に滞在。現実と仮想、オリジナルと複製、歴史と痕跡などをテーマとした写真や、建物に写真バナーを設置する大型インスタレーションなど都市空間の見え方を一変させるようなダイナミックな作品を発表。北極・南極を含め世界各地で撮影を重ねています。

「深緑の楽園 ― 福岡」 2019 年
本作は、ハン・スンピルが 2004 年から世界各地で展開する《ファサード・プロジェクト》のひとつで、博多区東長寺に展示した新作です。東長寺の本堂前面を覆う写真は、作者が福岡滞在中に近隣の山々や島などの自然を訪ね歩き、撮影した滝や苔、木々の緑などを組み合わせた画像です。また本堂の側面には、東長寺の大きな大仏と五重塔の写真、そして入口には黄金の蓮の写真が続き、来場者を本堂の中へと誘います。アジアとの交流の窓口である博多の歴史と東長寺の造りをいかした作品です。作者は、都市の建物を自然のイメージで覆うことで、大きく気候変動する現代の環境問題について疑問を投げかけます。

撮影:ハン・スンピル

レ・ヒエン・ミン[ベトナム]
[滞在期間 8月19日~10月24日]
1979 年ベトナム、ハノイ生まれ、ホーチミン在住。1999 年ホーチミン市美術大学卒業。2002 年ワシントンのコーコラン美術学校卒業。2004 年オハイオのシンシナティ・アート・アカデミー卒業。福岡アジア美術館のレジデンス作家として、今年8-10 月に福岡に滞在。ベトナムの伝統的な手漉き紙「ゾー」を用いたインスタレーションや彫刻作品を制作し、近年は女性の身体をモチーフにして、女性の社会における位置づけなどのテーマに取り組んでいます。

Molly Stinchfield courtesy of Art Omi

「5つの問い」 2019 年
レ・ヒエン・ミンは、16年にわたりベトナムの伝統的な手漉き紙ゾーを素材に、彫刻や空間全体を作品とするインスタレーションを制作してきました。ここ数年はとくに女性の身体や社会における地位などに関心を寄せています。本作の女性像は、人間に共通する感情や精神の状態、「勝利」「休息」「疲れ」「守り」「宿す」の5つのポーズを取り、博多区の妙楽寺の境内に置かれました。来場者は、「女性とは誰でしょう?」などの《5つの問い》への答えを小さな丸いゾーの紙に書き、5 体の女性像のいずれかに貼りました。5 体の女性像には、人々のさまざまな考え、思いが宿り、参加型の作品として完成しました。本コーナーでも、妙楽寺会場に引き続き、来場者からの参加を募ります。

撮影:八田公子