イマジン─争いのない世界へ
- 期間
- 2015年6月11日 (木) 〜 2015年9月1日 (火)
- 会場
アジアギャラリー
今年、日本は太平洋戦争の終結から70年目を迎えました。本展は、この節目の年に、美術作品を通してアジアでおこった戦争を見つめ、美術と戦争の関わりについて考えようとするものです。
展覧会では、日本がアジア諸地域へ侵攻する形で始まった戦争から、20世紀のアジア各地で起こった独立戦争や、民族・宗教・思想上の対立による紛争、いまも頻発するテロまで、様々な争いへの応答として作られた作品を展示します。その内容は、現在から見ると特定のイデオロギーにとらわれたものに見えるかもしれませんが、作家たちは時代と社会の制約や重圧の下で、戦争という大事に真摯に向き合い、できうる表現をおこなってきました。そこには、生々しい戦いの場面だけでなく、戦時下の日常、戦後の新たな問題、そして戦争についての批判や反戦の思いなどが表現されています。
この展覧会が、わたしたちが次の時代へ歩みをすすめるためのささやかなステップとなり、ジョン・レノンが戦争のない世界を「イマジン(想像)」しようと歌ったように、平和について考えるきっかけになることを願っています。
1日本による戦争
19世紀末から20世紀前半、日本は朝鮮半島や遼東半島から中国へ、また台湾から東南アジアへと、軍事力を背景に領土拡大を目指しました。朝鮮半島の利権をめぐった日清戦争(1894-95年)、朝鮮半島と中国東北部(満洲)の権益を争った日露戦争(1904-05年)、そして満洲の占領をもくろんだ満洲事変(1931-33年)、中国に侵攻した日中戦争(1937-45年)からアジア全域へ拡大した太平洋戦争(1941-45年)。わずか半世紀の歴史には、おびただしい犠牲者を出したいくつもの戦争が並んでいます。そして、その結果、台湾と朝鮮半島の植民地化、満洲の実行支配、東南アジアの占領という、日本による植民地経営と他民族の支配が平行して行なわれたことも、忘れることはできません。
第1章は、日本による戦争をテーマにしています。アジア各地へ従軍画家としてわたった、福岡ゆかりの古城江観と中村研一をとりあげます。彼ら日本人の目に対して、太平洋戦争の戦場となったフィリピンの画家の目としてフェルナンド・アモルソロを紹介します。異なる立場の画家の目は、戦争の何を描きだしているのでしょうか? そして今日、戦争の記憶を風化させないために表現する、マレーシアのウォン・ホイチョンと沖縄の山城知佳子による「日本による戦争」を紹介します。ふたりの作品は、人間の心の闇にむきあいながら平和をねがい、過去を記録し未来へつなごうとする仕事です。
2アジアの戦争 冷戦のなかで、分断される国・民族
1945年8月15日、太平洋戦争が終わりました。しかしそれは、新たな戦争の始まりでもありました。
まず、西洋列強の植民地だったアジアの多くの国は、宗主国との激しい独立戦争を経験します。結果、現在のアジアの国・地域のかたちができあがりました。さらに独立後には、あたらしい国の内実をめぐって、宗教やイデオロギーや民族の対立により、いくつもの戦争が起こります。イデオロギーの相違によって国と民族を分断して戦われた朝鮮戦争(1950-53年休戦)やベトナム戦争(1960頃-75年)、激しい宗教対立によるインド・パキスタンの分離独立(1947年)、さらに民族対立によるパキスタンからのバングラデシュ独立戦争(1971年)などです。国と民族をわけたこれらの戦争は、戦渦による直接的な犠牲者だけでなく、家族の離散や難民という問題、さらには移住先での差別の問題を連鎖的に引き起こします。そして、しばしば資本主義陣営と共産主義陣営の覇権をめぐる冷戦構造(1945-89年)を反映し、複雑な様相を呈しています。とりわけベトナム戦争は、アメリカとソビエトの代理戦争とも言われました。
第2章では、ベトナム戦争に関する作品を中心に紹介します。後方支援を主題にしたグエン・ニュ・ファンの漆絵や、戦意高揚のためのポスターは、画家たちが従軍しながら仕上げたものです。どれも勝利を、その先の平和を目指して制作されました。また、こどもの頃にベトナム戦争を経験したチュオン・タンや、難民として渡米したディン・キュー・レを紹介します。大人になったふたりは、ベトナム戦争に想を得ながら、勝者や敗者といった単純な図式を超えて、戦争そのものの愚かさを表現します。
3新たな火種、止むことのない争い
1945年に第二次世界大戦が終わっても、1989年に冷戦構造が崩壊しても、いまなお宗教や民族やイデオロギーの対立による争いはやみません。また、基地や核兵器などの解決困難な問題も続いています。争うことも憂えることもない「戦後」は、まだ訪れてはいないのです。
ここでは、スリランカで四半世紀つづいた内戦(1983-2009年)の悲劇を題材にした作品、パキスタンとインドの間で争うように開発された核兵器を批判する作品、9・11以降のアフガニスタンの混乱を伝える作品など、現代の作家の目線で表現された戦争を紹介します。
また、いまの日本人にあらためて熟考をうながす二つの作品を紹介します。ひとつは、劣化ウラン弾の影響と言われる障がい児を描いた山口啓介の版画です。1991年の湾岸戦争以降、イラクでは劣化ウラン弾が使われ、障がい児の出生率や白血病の罹患率が高まりました。山口の作品は、唯一の被爆国であり福島第一原発事故を経験した日本のわたしたちにとって、他人事ではすまされない問題を突きつけてきます。
もうひとつは、比嘉豊光が写した「日本復帰」(1972年)前後の沖縄の写真です。彼の写した沖縄の姿は、45年という時を一気にとび越えて、米軍基地の辺野古移設にゆれる沖縄のいまに直結するものではないでしょうか?
4イマジン 争いのない世界へ
ハーディム・アリーの《誰もいない台所》に転写されたアフガニスタンの子どもの絵は、爆弾や銃、兵士や戦車などでした。山口啓介の《DU Child》の子どもは、劣化ウラン弾の被爆が疑われる障がい児でした。いかなる子どもも、武器をもつことがないよう、核の脅威にさらされることがないよう、「イマジン」の歌詞のように、国家や宗教や所有欲を越えて「世界が一つになる」未来を、わたしたちは希求します。例えばそれは、親子がいつでも、どこででも、無防備に熟睡できる未来かもしれません。
※会場で、展覧会パンフレットを配布いたします。数に限りがあります、ご了承ください。
1.日本による戦争 古城江観(鹿児島)、中村研一(福岡)、フェルナンド・アモルソロ(フィリピン)、ウォン・ホイチョン(マレーシア)、山城知佳子(沖縄)ほか
2.アジアの戦争―冷戦のなかで、分断される国・民族 カムスック・ケミンムアン(カンボジア)、ディン・キュー・レ(ベトナム)、チュオン・タン(ベトナム)、カイユム・チョウドリー(バングラデシュ)、ベトナム戦争ポスター原画ほか
3.新たな火種、止むことのない争い 比嘉豊光(沖縄)、山口啓介(兵庫)、ハーディム・アリー(パキスタン) ほか
4.イマジン―争いのない世界へ イ・デワ・プトゥ・モコ(インドネシア)
| 会場 | アジアギャラリー |
|---|---|
| 観覧料 | 一般200円(150円) 高校・大学生 150円(100円) 中学生以下無料 |
| 主催 | 福岡アジア美術館 |
| 問い合わせ | 福岡アジア美術館 Tel:092-263-1100 Fax:092-263-1105 |