バリ今昔物語
- 期間
- 2012年7月5日 (木) 〜 2012年10月2日 (火)
- 会場
アジアギャラリーA
リゾート地として知られるバリは、イスラム文化が広く浸透しているインドネシアのほかの地域と異なり、ヒンドゥ文化が土着の信仰や風習や文化と融合しながら独特な発展をとげた島です。この特有の伝統文化は、いまもバリの祭事から日常に到るまで、人々の生活を鮮やかに彩っています。
しかし、バリの伝統文化が保護され活性化されたのは、実は、近代のオランダ支配の時代においてでした。自然災害やオランダ支配による政治的・社会的混乱がつづいた 20 世紀初め、バリの人々は、それらの災厄を神々の怒りととらえ、神の怒りを鎮め島を浄化するために儀礼や演劇を活発に行うようになりました。同時に、こうした現象を、オランダ政府は古くからの伝統と理解し、災害からの復興とともに文化の保護を進め、「最後の楽園」と銘打ってバリの観光化を進めていったのです。
その結果、1930 年代のバリには、欧米から多くの芸術家が訪れるようになり、音楽、舞踊、美術は、西洋近代文化の影響をうけ変容していきます。その中心にいたのが、ドイツ人の画家で音楽家のヴァルター・シュピースでした。彼の指導は、今日わたしたちが一般的に知る「バリ絵画」の誕生を促し、そこから新たな伝統が形成されていきます。
さらに、バリの美術に大きな変化が見られるようになるのは、1980 年代後半になります。イ・デワ・プトゥ・モコは、典型的な「バリ絵画」から出発しながら、独自の視点でバリの日常を絵画にしていきます。それは、神と精霊を主な題材に、空間を埋め尽くすように表現した様式の「バリ絵画」とは異なるものでした。さらに、「バリ絵画」とは大きく距離をおく現代絵画も登場してきます。
本展では、バリ・ヒンドゥの儀礼や宮廷で使われていた伝統的な絵画から、「バリ絵画」に革新をもたらしたイ・デワ・プトゥ・モコの作品までを紹介します。バリをめぐる今と昔の物語を、作品の主題や表現の変遷に読み取っっていただければ幸いです。
カマサン様式の絵画
バリで最も長い歴史をもつ絵画で、14世紀の宮廷絵画に起源があります。主に宮廷や寺院での儀礼や装飾として制作されてきたもので、「カマサン」とは、これらを制作した画家たちの村の名前です。
『ラーマーヤナ』『マハーバーラタ』など、ヒンドゥ叙事詩や説話の一場面や神々を、線描で平面的に表現した様式を特色とします。神や山や植物のかたちが影絵芝居(ワヤン・クリッ)の平面的な造形にならっていることから、ワヤン様式とも呼ばれます。今でも同様の様式で制作が続けられています。
シュピースと「バリ絵画」
ドイツ人の画家であり音楽家であったヴァルター・シュピース(1895-1942)は、1928年にバリのウブドに居をかまえます。以降、その王族の庇護のもと、絵画、音楽、舞踊などバリ芸術全般の近代化・商業化を主導していきます。美術においては、1936年に画家組合ピタ・マハを結成し、西洋近代絵画をバリの画家に指導するとともに、彼らの作品の品評、販売、西洋への紹介を活発に行います。
この近代化への動きの中から、今日わたしたちが思い起こすような「バリ絵画」が生まれていきます。バリの宗教儀礼、風景、日常などを、空間を埋め尽くすように細密に描いた「バリ絵画」は、それまで唯一の様式だったカマサン様式の絵画とは大きく異なる新鮮なものでした。
プンゴセカン様式
1970 年代に、プンゴセカン村の画家、イ・デワ・プトゥ・モコ(モコについては、次のコーナーで紹介)とその弟バトゥアンは、村の画家を組織する「プンゴセカン美術家コミュニティ」を結成します。彼らは、宗教的な題材よりも、むしろバリの自然を好んで取り上げています。とくに、イ・デワ・プトゥ・セナやワヤン・ダルサナのように植物や鳥を得意とした画家が多く、それらを、画面いっぱいに細密に描いています。この特色ある題材や表現をもつ彼らの絵画様式は、プンゴセカン様式と呼ばれています。
イ・デワ・プトゥ・モコ(1934-2010)
モコは、プンゴセカン村に生まれ、画家であった叔父二人から「バリ絵画」を学びました。20代には早くも活躍が知られるようになり、1970年代には村の画家の中心的存在としてグループを結成します(先のコーナーで紹介)。
しかし、1989年以降、西洋の裸婦像との出会いやイタリア人写真家のモンドとの出会いを機に、モコはそれまでとは異なる主題と作風を模索するようになります。「バリ絵画」一般の題材を避けて、バリ人の暮らしの一コマや、性や出産や老いなど人の生涯、また人の身体そのものが、彼の絵画の主要なテーマになります。ユーモアを交えて表現されるそれらの作品は、飄々として温かく微笑ましい独自の絵画世界を形作っており、通常の「バリ絵画」の枠組みを大きく踏み出すものでした。
現代の表現
1980 年代、東南アジア各国では、主題、表現方法、材料などで新たな試みがなされ、現代美術は多様化していきます。その動きは、バリの美術にも波及し、細密な「バリ絵画」も、イ・デワ・プトゥ・モコのように、新鮮な表現で海外からも注目される作家も登場します(モコについては別のコーナーで紹介)。また、「バリ絵画」から距離をおき、インドネシア現代美術全体の動向にあわせて仕事をする、チューシンなどの作家が登場します。さらに現在では、「バリ絵画」を含めたバリ島の伝統に基づきながら様々な素材や表現方法で、現代の問題を考えようとする若手作家も現れています。
※バリ島の若手作家ブディ・アグン・クスワラが当館のレジデンス事業に参加(5月16日~7月24日)。滞在制作した作品は7月21日~8月6日に公開。
| 会場 | アジアギャラリーA |
|---|---|
| 観覧料 | 一般200円(150円) 高校・大学生150円(100円) 中学生以下無料※7/5〜8/31は無料。 |
| 主催 | 福岡アジア美術館 |
| 問い合わせ | 092-263-1100 |