コレクション展

東南アジアのアート・スペース-あじび・アーカイブ・セレクション

期間
2016年9月28日 (水) 〜 2016年12月25日 (日)
会場

M8

当館では、これまでアジアの近現代美術に関するアーカイブ資料(展覧会図録、パンフレット、記録映像など)を収集してきました。本展示は、コレクション展「アートでつながる―東南アジアの美術グループ」展(7階アジアギャラリー、10/6-12/25)に合わせて、当館のアーカイブ資料の中から、東南アジアのアート・スペースに関する美術書籍、パンフレット等を紹介します。

アーティスト自身が運営するこれらのスペースは、これまで東南アジア各地のアートシーンを牽引していく重要な役割を果たしてきました。公的な文化支援が少ないなか、自立的な展示・発信・批評を行うこれらの場所で、アーティストたちは制作・発表だけでなく、情報の交換や共有、新たな出会いと協働を可能にする有機的なコミュニティとネットワークを作り出してきました。

本展示ではこれらのスペースおよびスペースの運営に関わるアーティストたちのアーカイブ資料を通じて、今実際に足を運ぶことのできる東南アジア各地のアート・スペースを紹介します。

 

Taring Padi(タリン・パディ)

インドネシア/ジョグジャカルタ
設立年:1998
メンバー:ムハマッド・ユスフ、他
住所:Dusun Sembungan, Rt.02, Desa Bangunjiwo Kec. Kasihan, Kab.Bantul, Yogyakarta,Indonesia
オープン時間:不定期

概要
1998年、スハルト政権に対する反体制・民主化運動に参加していた美術大学の学生らによって設立。タリン・パディは「稲の先」という意味。元美術大学の一部を占拠し、集団生活を行いながら版画やポスターの制作を開始する。「アート・アクティビィズム・ロックンロール」をモットーに、社会的なテーマ(政府の腐敗、巨大企業による乱開発、貧富の格差等)を、ジャワの伝統芸術、Do It Yourself(注)精神、パンク、反グローバリゼーション運動の要素をそれぞれ取り入れて表現した。現在、設立メンバーのムハマッド・ユスフは、創作活動と共に版画技術のワークショップを行い、版画の表現力によって直面する社会問題やコミュニティの意思を表現できる若い世代を育成している。

(注)Do It Yourselfは、「既製品の消費に依存しない姿勢」によって、資本主義や消費文化とは異なる生活様式・手段を求める運動を指す。

アーティスト

ムハマッド・ユスフ(1975年生、ジョクジャカルタ在住)

インドネシア生まれの画家・版画家。インドネシア芸術研究所(ジョグジャカルタ)卒業。1998年に「タリン・パディ」を結成、現在も美術活動を続ける唯一の創立メンバー。インドネシア各地、オーストラリア、オランダなどのグループ展やレジデンスに参加。2009年、ジョグジャ・ビエンナーレに参加。農民や労働者の生活をその政治背景とともに描き、さらに近年はジャワの伝統文化をモチーフにした作品も制作している。当館所蔵作家。

 

ruangrupa (ルアンルパ)

インドネシア、ジャカルタ
設立年:2000年
メンバー: アデ・ダルマワン、インドラ・アメン、他
住所:Jl.Pancoran Timur II No.4, Jakarta Selatan 12780, Indonesia
オープン時間:月曜~土曜11:00-21:00

概要
2000年にジャカルタ在住のアーティストたちによって設立された現代アートの非営利組織。Ruangは、空間・部屋、rupaは形の意。複数のアーティスト・グループによる、水平的でゆるやかなネットワークからなる実験的な芸術活動の場としてスタートした。その活動は展覧会、フェスティバル、ビデオアート展、都市のリサーチ・プログラムから、インターネット・ラジオ放送まで多岐にわたる。「アートによる都市環境への創造的介入」をテーマに、アーティスト、社会活動家、研究者、学生、地域住民らとともに、集団的かつ批評的に社会やコミュニティと関わるプロジェクトを展開し、都市の潜在的な可能性(協働作業・コミュニティ参画、知識生産)を探求している。

プロジェクト

「ヴァーティカル・ヴィレッジ・プロジェクト(Vertical Village Project)」

2013年にオーストラリア、シドニーの4A アジア現代美術センターで開催された、ルアンルパと建築家ケグ・デ・ソウザ(オーストラリア)による展覧会。「ヴァーティカル・ヴィレッジ」は「垂直の村」の意味。シドニーとジャカルタでフィールドワークを行い、それぞれの都市に住む留学生や中産階級のコミュニティに焦点をあて、日常生活をめぐる人々の都市環境への関わり方や経験を、対話や調査を通じて図表化していった。ギャラリー内にインドネシア留学生が集団生活を営む寮の室内を再現し、普段可視化されないそれぞれのコミュニティ、グループの日常生活や実体験を共有し、交差させる試みを行った。「ヴァーティカル・ビレッジは」は「垂直の村」の意味。

 

Green Papaya Art Project(グリーンパパイヤ・アートプロジェクト)

フィリピン:マニラ
設立:2000年
メンバー:ノルベルト・ロルダン、ドナ・ミランダ、他
住所:41B T. Gener St, Quezon City, 1103 Metro Manila, Philippines
オープン時間:プロジェクトやイベントによる。

概要
2000年にアーティスト、ノルベルト・ロルダンが、マニラのケソンに設立した団体。アート作品の制作、普及、表現への新たな手法を、多様な領域の中で探求する活動や提案を支援、組織している。アート・コミュニティにおける知識の交換、情報の共有、批評的対話、創造的かつ実践的な協働のための場を提供する。フィリピンでもっとも長く、自立的に運営されているアート・スペース。毎週、水、木、土曜の夜にはバー営業も行い、アート関係者たちの交流や議論の場となっている。

アーティスト

ノルベルト・ロルダン (1953年生、マニラ在住)

フィリピン生まれの画家。サント・トーマス大学で美術を学んだ後、聖パユス第10神学校で哲学を学んだ。1987年に個展「戦争のイメージ」をマニラのヒラヤ・ギャラリーで、1989年個展「継続する苦闘の痕跡」をオーストラリアで開催。ブラック・アーティスツ・イン・アジア(BAA)の共同設立者の一人。人権問題など社会性の強いテーマを、宗教的なモチーフと身近な素材を用いて追求する。当館所蔵作家。

 

98B COLLABoratory (98B コラボラトリー)

フィリピン:マニラ
設立:2012年
メンバー:マーク・サルバトゥス、平野真弓、他
住所:Mezzanine flr, First United Building, Escolta St, Binondo, Manila, The Philippines
オープン時間: 要予約(hello@98-b.org)

概要
98B コラボラトリーは、マニラ市内、ビノンド・キアポ地区にあるアートスペース。2012年にアーティストのマーク・サルバトゥスが自らのスタジオ兼住居をアート・スペースとして開き、現在はオールド・マニラのエスコルタ街に移転した。図書室、キッチン、店舗を備えた複合的なアート・センターで、アーティストだけでなく、文化芸術、教育、社会運動に関わる人びととともに、実験的な展覧会、レクチャー、地域住民向けのプロジェクトを地域の中で展開している。また月に一度、地下駐車場を利用して、美術書、アート作品やクラフト、リサイクル品を扱う「未来のマーケット(Future Market)」を開催している。

アーティスト

マーク・サルバトゥス(1980年生、マニラ在住)

都市化や日常生活における政治をテーマに、多様なメディア(ドローイング、写真、インスタレーション)を使って制作を行う。2006年には短期のストリート・アート・グループ「フィリピンっ子ストリート・計画」に参加。日本では、横浜の「黄金町バザール2011」にて滞在制作を行う。98Bコラボラトリーの共同運営、個人の制作活動と並行して、フィリピンにおける民衆的アート運動を活性化させる活動に深く関わっている。

 

Lost Generation Space (ロストジェネレーション・スペース)

マレーシア:クアラルンプール
設立年:2004年
メンバー:ヨー・リアン・ヘン、 ラン・ツージー、他
住所:8c, Jalan Panggung, 50000 Kuala Lumpur, Malaysia
オープン時間:火曜~日曜13:00-18:00

概要
通称ロストジェンズ(「失われた世代」空間)は、クアラルンプール市内の中華街にあるアート・スペース。2004年の設立時から、アートへの市民参加、都市の記憶・歴史というテーマで、展示や展覧会、哲学書の読書会やドキュメンタリー映画上映会、地域の再開発に対する学習会など、都市と人々の暮らしに包括的に関わるアート・プロジェクトを行っている。ディレクターのヨー・リアン・ヘンは中華街の飲食店や商店の古写真や家族史を収集することで、中華系マレーシア人たちのコミュニティと生活空間の記憶を辿るリサーチを継続している。

プロジェクト
ロストジェンズは、路上生活の人々に食事を振る舞う「爆弾でなく食料を(Food Not Bombs)」の活動や、モノレール建設に伴う旧市街地の立ち退き反対運動にも積極的に関わり、アートと社会運動を往還した活動を続けている。「私たちは、アートをギャラリーの中だけに閉じ込めるのではなく、自分たちが生活を営むコミュニティや社会へと還元していく方法を探求している」とヨーは語る。

 

NHA SAN COLLECTIVE (ニャサン・コレクティブ

ベトナム:ハノイ
設立:2013
メンバー:グエン・フォン・リン、他
住所:15th floor, HNCC building, No1 Luong Yen Street, Hanoi, Vietnam
オープン時間:水曜~日曜 14:00-19:00

概要
ベトナムで最初の実験的現代アートスペース「ニャサン・スタジオ (NSS) 」が2010年に閉鎖されたのち、そこに集っていた若手アーティストたちによって設立された。初期にはゲリラ的な展覧会や移動式のイベント、企画を数多く行い、現在はハノイ・クリエイティブ・シティ(HNCC) ビル内にスペースを移して共同運営を行っている。専門的なキュレーターが少ないベトナムでは、アーティスト自身が展覧会を企画し、キュレーションを行い、アートプロジェクトを運営している。その結果、相互扶助的なネットワークが形成され、ジャンルや専門の垣根を越えてアートや文化の領域を社会に拡大させる試みが日々行われている。

アーティスト

グエン・フォン・リン(1985年生、ハノイ在住)

1985年、ハノイ生まれのアーティストで、ニャサン・コレクティブの設立メンバー。ニャサン・スタジオの設立者である、グエン・マン・ドゥック(Nguyen Manh Duc)を父に持つ。塩を使ったインスタレーションやパフォーマンスを国内外で発表。2011年には当館のアーティスト・イン・レジデンス・プログラムにより福岡に滞在。成果展では、朝倉市の鉱山から採取した石粉を使ったインスタレーション「石景」を展示した。

 

Hanoi Doc Lab(ハノイ・ドック・ラボ

ベトナム:ハノイ
設立年:2009
メンバー:グエン・チン・ティ、他
住所:56-58 Nguyen Thai Hoc, Hanoi, Viet Nam
オープン時間: 月曜~金曜 14:00-18:00

概要
ドキュメンタリー映像やビデオアートための実験室兼センター。その活動は、基礎から上級までの映画製作や編集のワークショップ、毎週ごとの上映会や討論会の開催、映像・ビデオ作家の招へいなど幅広く、市民が利用できる編集室、ビデオライブラリーの運営を行っている。

アーティスト

グエン・チン・ティ (1973年生、ハノイ在住)

1973年生まれ、ハノイ在住。1999年、米国アイオワ大学報道専攻課程修了。2005年、カリフォルニア大学サンディエゴ校太平洋国際学専攻課程修了。2007年頃からハノイを拠点に記録・実験映像を制作。2012年「アジアをつなぐ」展(福岡アジア美術館他)、2014年「第5回福岡アジア美術トリエンナーレ」に出品。近年注目を集める女性映像作家のひとり。当館所蔵作家。