コレクション展

あじびレジデンスの部屋 第3期
「アパ・カバール(元気ですか)? ニンディティオ」

期間
2023年1月2日 (月) 〜 2023年3月21日 (火)
会場

アジアギャラリーB

あじびレジデンスの部屋

――福岡アジア美術館アーティスト・イン・レジデンス事業とは

福岡アジア美術館では、1999年の開館以来、アジアの美術交流拠点を目指し、アジア各地からアーティストなどを招へいする「アーティスト・イン・レジデンス」事業を行ってきました。滞在制作だけではなく、研究やワークショップ、展覧会、トークなどのさまざまな美術交流によって、地域の人々がアジアの美術や文化への理解を含める機会を生み出してきました。2021年度までに115名のアジアのアーティスト、研究者が当館に滞在し、その後、国際的な活躍を続けています。

2022年度の第Ⅱ期(9-12月)から、Fukuoka Art Next(彩りにあふれたアートのまちをめざす福岡市の取組み)の一環として事業を拡充し、アジアに加え国内外からの招へいアーティストがArtist Cafe Fukuoka(舞鶴公園内の旧舞鶴中学校)を拠点に滞在制作していきます。福岡での創作活動や作品発表等のさまざまな機会を提供することで、アーティスト同士が刺激し合って成長し、福岡から世界に羽ばくことを支援します。

「あじびレジデンスの部屋」では、これまでのレジデンス事業や「福岡アジア美術トリエンナーレ」で福岡に滞在したアーティストたちの滞在中の活動やその後の活躍などを紹介します。福岡の人々とアーティストや研究者の間で巻き起こっている刺激的な交流の一端を感じていただければ幸いです。

 

—————————————————————————————–

はじめに

今や世界から注目を浴びるインドネシア現代美術におけるキーパーソン、ニンディティオ・アディプルノモ(1961- )。2002年「第2回福岡アジア美術トリエンナーレ2002(FT2)」の参加作家として3週間、福岡に滞在しました。本展では、当時の制作記録や資料、所蔵作品からその活動を紹介します。

ジョグジャカルタに拠点をおくニンディティオは、福岡に滞在した当時41歳。ジャワ文化をテーマに制作する美術作家として、すでに国際的に活躍するとともに、1988年にはチムティ・ギャラリーを設立。当時、急速に商業主義化していたインドネシアの美術動向に対して、実験的な表現を模索する若手作家を支援し、国際的なネットワークを築いていました。さらに1995年にはチムティ芸術財団(現在のIVAA[Indonesia Visual Art Archive])を設立して、調査・収集した美術資料を公開し、インドネシア美術の継続的な発展に貢献をしてきました。

 

福岡での滞在制作作品

参加型インスタレーション作品《Inter-Act.》

2000年頃、ニンディティオは、「コンデ」というジャワ女性が儀式などの際に伝統的に結ぶ髷(まげ)をテーマに、その意味や価値を問うようなシリーズ作品に取り組んでいました。福岡滞在中にも、そのアイディアを発展させて、福岡市中央区大名にある美容室Act.で《Inter-Act.》を制作しています。

美容室の待合室には、髷の形のオブジェ2つと周囲を髷で覆ったモニターが置かれ、モニターにはインドネシアにおいて髷が象徴的な意味をもつ場面を集めた映像(本展で展示)が映し出されました。美容室に来た人が、切った自分の髪を銀細工のレース袋に詰めて、オブジェに吊るすという参加型のインスタレーション作品でした。

また《私はそんなジャワ人ではない》では、インドネシアの籐細工職人と共同で作品を制作しましたが、福岡の制作でも美容師や美容室の来客、そして多くの制作ボランティアの協力を得て作品を作り上げ、共同制作という方法がもつ可能性とそこにひそむ問題について問いかけました。

 

大名から天神へ「ジャラン・ジャラン(散歩)」

ニンディティオは、同じ大名の美容室で日本の髷をつけてお化粧してもらい、着物を羽織って福岡の町に「ジャラン・ジャラン」(インドネシア語で「散歩」の意味)に出かけました。《ジャワ男性の肖像》で、男性たちがインドネシアの女性を文化的に規定する髷のコンデを顔にかぶったように、今度はニンディティオ自身が日本の女性の髷をつけることで、伝統文化やジェンダーなど社会的な規範がもたらすものを、自ら体験しようとしました。

 

それから20年。ニンディティオは、美術作家として、さまざまな境界や枠組みを越えた制作に挑戦してきました。近年では、映画や振付師とのコラボレーション、異文化が混淆する状況の美術的な調査など、既存の価値観をゆさぶる多彩なアート・プロジェクトを手掛けています。また、設立34年を迎えるチムティの名称を、2017年より新たに「チムティ―美術と社会のための組織」とし、社会や政治に深く関与していく美術実践のありかたを追求しています。

ニンディティオ、アパ・カバール(元気ですか)?

 

参考文献:廣田緑『協働と共生のネットワークーインドネシア現代美術の民族誌』grambooks、2022年 /Nindityo Adipurnomo, Tolerance, Cemeti Art House, 2002