草原の国から~モンゴル美術の50年
- 期間
- 2022年4月7日 (木) 〜 2022年6月28日 (火)
- 会場
アジアギャラリーB
はじめに
日本とモンゴルは、1972年2月24日に外交関係を結び、2022年は50周年の節目にあたります。それを記念して、福岡アジア美術館では、所蔵品を用いて、モンゴル美術の約50年の歩みをたどる展覧会を開催いたします。
モンゴルの人々は、広大な自然のなか、何世紀にもわたって、遊牧生活を営んできました。そのため、最も人気の高い主題として、モンゴルの美術作品には、雄大な自然や自然がもつ神秘的な力、ともに生きる動物たちの姿がよく登場します。一方で、社会主義体制の時代には社会主義の理想を表現した作品が、民主化した1990年代以降は、社会主義時代には描けなかった歴史や現実が、そして2000年代以降は、女性の生き方や都市の文化などを主題とした、その時代時代を反映した作品も数多く描かれています。
本展では、様々な主題をあらわした油彩画、モンゴル画[1]、アップリケ、彫刻など約30点の美術作品を紹介します。モンゴルの豊かな美術作品をじっくりとご堪能ください。
⓪20世紀前半
モンゴルは、ソビエト連邦に続く世界で2番目の社会主義国「モンゴル人民共和国」として1924年に独立を果たします。独立以前の清朝統治時代の美術的な表現といえば、チベット仏教の影響を受けた仏教美術が主流でしたが、独立後はソ連から美術教師が派遣され、西洋美術が教えられるようになりました。1940年代には、モンゴル国立芸術文化大学や芸術家組合が設立され、才能を認められた美術作家たちは、画材や制作場所などで国からの支援を受けたり、ソ連や東欧などに国費留学するなど、恵まれた環境で制作することができました。
① 1960-80年代
社会主義体制下のモンゴルでは、油彩画や彫刻など西洋的な技法が主流となりますが、1960年代頃から、かつて主に仏教美術で用いられていたモンゴル画やアップリケの技法が一部の作家によって復活され、相撲などの伝統文化や社会主義下の国家行事が描かれました。
社会主義時代から現代までを通じて、モンゴルで最も人気のある主題は「自然」です。草原や青空、砂漠など、モンゴルの雄大な風景は、美術作家にとって魅力的な主題であり続けています。そこには、人々の暮らしに欠かすことのできない馬や羊、ラクダといった家畜たちの姿も、しばしば描きこまれています。一方で、国の政策に反するとみなされた主題は描くことができませんでした。
② 1990-2000年代
ソ連における民主化の高まりに呼応して、1988年頃からモンゴルでも民主化運動が起こり、1992年には新生「モンゴル国」が誕生しました。これによって、美術の分野でも社会主義国家に支えられた体制は終わりを迎えます。
美術作家たちは、国家による経済的な保証を失った代わりに、これまでタブーとされていたチンギス・ハーンなど民族の英雄の姿や、社会主義時代に弾圧を受けた仏教に関する主題、マンホールで暮らす子どもたちなどモンゴルの貧しい現実などを描くことができるようになりました。
③ 2010年代以降
近年のモンゴルのアートシーンで、最も注目すべき傾向はモンゴル画の隆盛です。2000年代初頭まで、モンゴル画といえば、20世紀初頭の画家シャラブ(1869-1939)の作品を現代風にアレンジした、お土産的な作品が一般的でしたが、モンゴル国立芸術文化大学の卒業生たちによって、多彩なモンゴル画が描かれるようになりました。画家たちは、それぞれ個性的な作風で、現代の社会や政治、歴史、女性の生き方などが様々な主題に取り組んでいます。
[1] 「モンゴル画」とは、日本における「日本画」にあたるもので、西洋美術を受容する過程において、それ以前にあった伝統的な絵画技法が「モンゴル画」と呼ばれています。本来は鉱物顔料と膠で描かれていましたが、現代のモンゴル画家たちはあまり材質にはこだわらず、アクリル絵具や水彩絵具を用いている画家も多いです。