神と自然のコスモロジー ~ネパールの美術~
- 期間
- 2011年1月2日 (日) 〜 2011年3月29日 (火)
- 会場
アジアギャラリーA
はじめに
本展は、現在、当館が所蔵するネパールの作品58点の中から、主に70年代以降に制作された作品25点をご紹介するものです。別室で開催している『華麗なるネパールの神仏~ポーバ絵画の世界』展(3/22まで)にあわせた企画であり、ともにご覧いただくことで、ネパールの近現代美術の展開を概観いただくことができます。 『ポーバ絵画の世界』展では、現代でもネパールで制作されている、ヒンドゥー教や仏教の神仏を描いた華麗な絵画を展示していますが、本展では、美術家それぞれの、ネパール社会やネパール人の価値観に対する考え方を表明した作品群を紹介しています。
それらは、伝統的な神仏の図像を引き継いだ宗教絵画とは異なりますが、作品につけられた《マンダラ》《神々》《化身》《ガネーシャ》などのタイトルや、宗教図像を基にした絵柄等から推察されるように、創作の根底には、ネパールの人々に厚く信仰されているヒンドゥー教や仏教などの教えが脈々と流れています。
また、多くの作品には自然が描きこまれています。聖地カイラス山や世界最高峰のエベレスト山を抱くヒマラヤ山脈の、中腹から裾野へひろがるネパールに暮らす人々にとって、自然──とりわけ山々は、神仏が宿る畏敬すべき神聖な空間であり、さらに近代以降は、山の形をした国旗が示すように自らの「国土」の象徴でもあります。
ここで展示している作品群は、一見、『ポーバ絵画の世界』展でご覧いただく神仏の世界からは遠く離れているようです。しかし、その実、それらに通底する宗教観や自然観に支えられているものです。
本展及び『ポーバ絵画の世界』展を通して、ネパール美術の神と自然の宇宙への旅をお楽しみいただければ幸いです。
1、1930年代~60年代──近代美術の誕生
19世紀中頃にネパールへ紹介された西洋美術が、ネパールで独自の展開を見せるようになったのは、20世紀に入ってからです。
とくに、民主化がすすんだ1950年代以降、その展開は本格化し、美術の諸制度が整えられていく中で、西洋やインドへの留学から帰国した作家たちが核となり、20世紀の西洋近代美術をふまえた作品を制作するようになります。その代表的な画家が、1950年代にフランスに留学したライン・シン・バンデルでした。
1934年 美術学校設立[現トリブヴァン大学美術学部]
(正式な美術教育の開始)
1957年 王立ネパール・アカデミー設立
(美術や音楽や文学の振興を目的)
1963年 カトマンドゥで近代絵画の初の展覧会開催
(ネパール近代美術の出発点)
1965年 ネパール美術協会設立
(美術の振興と美術家の育成を目的)
2、1970年代~80年代──ネパール式モダニズムの展開
アジアの美術家にとって、国際的な普遍性を備えると同時に、その国ならではの独自性(ナショナル・アイデンティティ)を表現することは重要な課題でした。
ネパールでも、70年代から80年代にかけ、色や形で普遍性を目指す抽象表現やそれを取り入れた半具象的な表現が、たいへん盛んになります。そして、そのように世界との同時性を求める一方で、表現内容にはネパール独自のものが追求されていきます。それらは、しばしば、ヒンドゥー教や仏教などに基づくネパールの宗教的世界観であり、世界に誇るヒマラヤ山脈を「国土」としてもつ自然観などでした。
抽象表現という国際的に通じる言語や文法をもちいて、ネパール独自の宗教や自然という「国」を象徴する内容を語ることで、ネパールの美術家たちは重い課題に応えていったと言えます。
3、1990年代~現在──多様化する表現とテーマ
1990年代になると、アジアの多くの国の美術家たちの関心は、絵画や彫刻といった従来の形式を乗り越えるものへと向かいます。また、表現内容も社会的なものへと広がっていきます。
ネパールの現代美術にも、それまでのテーマに加え、90年代半ばからは自然破壊や社会にはびこる汚職、女性の社会的地位の問題など、社会の現実へ目を向ける作品が登場し、インスタレーションなど新しい表現形式が見られるようになります。しかし同時に、多様化するテーマと表現の中には、しばしば、ネパールの人々の意識や生活のすみずみに息づいている宗教的世界観や自然観が現われています。
| 会場 | アジアギャラリーA |
|---|---|
| 観覧料 | 一般200円(150円) 高校・大学生 150円(100円) 中学生以下無料 |
| 主催 | 福岡アジア美術館 |