ヘリ・ドノ「愚にもつかないおしゃべり」1991年

久しぶりに再会してとてもうれしい

期間
2020年9月24日 (木) 〜 2020年12月25日 (金)
会場

アジアギャラリー

1 孤立、沈黙、恐れ
【久しぶりに再会してとてもうれしい】は、カンボジア人画家のスヴァーイ・ケーンが描いた小さな油彩画のタイトル。絵のなかの二人を見ていると、こちらまでほっとするような温かさに包まれます。しかしこうした情景は、今の私たちにとって、少し遠い世界のように感じられるかもしれません。新型コロナウイルスの脅威によって、私たちの生活や社会的なつながりは、物理的にも心理的にも制限され、疲弊し、社会の隅々にまでしわ寄せが及んでいます。
ここではまず、そうした状況を連想させるような作品を紹介します。たとえば、竹篭に入れられた小学生、バスの車内に詰め込まれた人々、マスクをした辺境の人々。これらの作品はコロナ禍と直接関係はありませんが、どこかでコロナが発現して以降の世界の在りようにつながっているように思えます。

2 出会い、集まり、語らい
新型コロナウイルスによって、これまでの日常が立ち行かなくなっている今、ここからは人々が集い、語り合うことの意味や喜びを伝えるような作品を紹介します。
それをもっともストレートに表現しているのが、スヴァーイ・ケーンの描いた《久しぶりに再会してとてもうれしい》。特別に絵の勉強をしたわけではなく、60歳を過ぎて定年退職をした後に作品制作をはじめた異色の画家です。日記のようにほぼ毎日、カンボジアのささやかな日常を温かな眼差しで描きました。そうして残された素朴な作品世界は、人生で大切なことは何かを、私たちに優しく語りかけてくれます。
あるいはミャンマーの製本工場を撮影したティーモーナインの《ページをめくる間に》。製本作業の合間に交わされる女性たちの他愛もないおしゃべりが、もしページの間々に一緒に挟み込まれているとしたら・・・ そう想像してみるだけで、世界がすこし活気づいたかのように思われます。このほか、子どもたちの元気な姿が描かれた作品、家族やコミュニティのつながりを再確認するような作品なども登場します。
たとえ思うように移動できなくて、社会的なつながりが目に見えにくくなっているとしても、想像力の扉を開きさえすれば、私たちはどこででも出会えるのではないでしょうか。